(技術開発秘話)10年間に渡る数々の実験を超えて。鉄道施設の安全を守る「スキマモール」誕生秘話

クリヤマR&D
皆元一郎
クリヤマグループにて技術開発に携わり続け、ブラジル工場の工場長を務めるなどの活躍後、平成8年、クリヤマの研究機関としてクリヤマ技術研究所発足時から在籍。鉄道施設向けの床材「スキマモール」の開発などを手掛ける。

クリヤマグループにて技術開発に携わり続け、ブラジル工場の工場長を務めるなどの活躍後、平成8年、クリヤマの研究機関としてクリヤマ技術研究所発足時から在籍。鉄道施設向けの床材「スキマモール」の開発などを手掛ける。

クリヤマ技術研究所の歴史から生まれた主力製品「スキマモール」

クリヤマ株式会社(現クリヤマジャパン株式会社)と関連会社との合同出資により、クリヤマの研究機関として発足したクリヤマ技術研究所(2024年にクリヤマホールディングス株式会社100%出資の中核事業会社となり、クリヤマR&D株式会社へ社名変更)。技術研究所設立当時から技術職として研究・開発に携わっているのが、皆元一郎さんです。新しい製品の商品開発はもちろん、既存製品の安全性をチェックする評価試験・分析業務も行なっています。

「30年近く研究所にいて、数々の製品の企画があった中で、製品化まで漕ぎ着けたのは数えるほど。新製品を出すというのはそう簡単なものじゃありません」。そう皆元さんは語ります。競合に勝てない製品であったり、マーケットが狭い製品であったりすれば、どんなに開発期間がかかっても製品化が取りやめになることも。

厳しい経営判断の元、販売にまで漕ぎ着けた製品の1つが、鉄道施設向けの床材「スキマモール」。駅のプラットホーム先端と列車との隙間を少なくし、乗降客が安全に電車を乗り降りできるように開発された製品です。

プラットフォームに取り付ける安全対策製品はかつて、ゴム製のものが主流でしたが、ある施設の開発部門の方から、ゴムは日光による変色が激しく困っていること、またその製品の重量が重く、値段も高いことに頭を悩ませていることを知った皆元さん。

「研究所の設立当初、我々はゴムに配合する薬品の制限が厳しくなっていたことも踏まえ、新たにゴムのような柔らかさを持った樹脂での製品開発を行なっていました。そこでその樹脂を使用した製品を作ってみましょうかとご提案したところ、お客様からもぜひその方向で作ってほしいと言われました」。

クリヤマグループの研究の歴史を活かした皆元さんの発案から、今やクリヤマの主力製品であるスキマモールの開発が始まりました。

あらゆる可能性を考慮して試験をやり尽くす

スキマモールの特徴は、万一の列車接触時に摩擦熱で材料が溶解することによって車両側への負担が軽減できることと、天板に凹凸形状を設けて踏圧による変更を抑え安定感の高い仕様になっていること。品質の高さを誇る製品を世に出すまでには、長期間試行錯誤を繰り返しました。

「樹脂は日光を当て続けると品質が劣化することがあります。プラットフォームで製品が壊れてしまっては大変ですから、製品化までにはあらゆる試験を行いました。お客様から要望された耐久期間は10年。製品が安全に機能するよう、10年間日光の当たる屋外にスキマモールを並べ、破壊試験や物性試験を行い、データを取り続けました。それらの蓄積されたデータの裏付けによって、10年の間、外部環境に耐える製品ですと安心してお客様に言えます」。

試験は長期に渡るだけでなく、あらゆる可能性を考慮して行わなければなりません。例えば強い日差しを受け続けたらどうなるか。体重の重い人間が踏む場合や、ピンヒールで一点に集中荷重がかかる場合はどうか。「どんなにチェックしても、思いがけないことが起こるものです。だからこそ、思いつく限りのことは全てやり尽くさなければなりません」と、皆元さん。

そのためには、顧客から製品の使い方を細かくヒアリングし、材料メーカーと打ち合わせを行います。材料の性質と利用用途の双方から理解を深めることで、製品の短所も把握し、先回りしてリスク対策を行えるのです。「お客様の言っていることを理解するだけでなく、その背後にあるご要望まで汲み取る。技術者と言えど、コミュニケーション力が求められる仕事です」。

1人では解決できない問題が山積したブラジル工場で気づいたこと

後輩社員からも「皆元さんのような、コミュニケーション力の高い技術者になりたい」と慕われる皆元さん。かつては「独りよがりで頑固な人間だった」と語る皆元さんが変わったきっかけは、40年以上前、ブラジルにあったクリヤマのゴムロール工場の工場長を務めていた頃に遡ります。

当時ブラジルはインフレにより数週間単位で10%、20%と大きな価格変動が起こっていました。その中で利益を出さなければならない上、材料の入手も困難、機械も高価で購入できない。問題が山積する中で慣れないポルトガル語を用い、工場の運営に奮闘したと言います。

「ゴムの技術はあっても、製品の製造を全て知っているわけではなかったので、実際に工場を運営してみると分からないことだらけ。自分1人では解決できない問題ばかりです。とにかくありとあらゆる人たちを巻き込み、力を借りる必要がありました」。

工場に勤める人たち、近くの鉄工所の人にまで協力を仰ぎ、製品づくりを進めていった皆元さん。工場の作業員も1人1人知ると、それぞれの強みが見え、大きなチームとして機能するようになっていきました。

「自分1人で出来ることというのは本当に僅かなこと。でも仲間たちと信頼関係を結び、共に事を成し遂げれば、何とかなる。人間とはそういうものだし、そういう役目を果たさなければならないと気づきました」と皆元さんは振り返ります。

技術者を理解し重んじてくれるクリヤマグループ

クリヤマ技術研究所時代から28年、研究所に携わってきた皆元さんが思う、クリヤマグループの良さとは。

「技術や技術者を大変良く理解してくれることです。私たちが考えて言うことを、上層部、営業部門共に耳を傾けて聞き入れてくれたり、お客様に伝えようとしたりしてくれます。それは商社として大きくなったクリヤマグループだからこそなのかもしれません。技術者に対する気持ちが暖かいですし、刺激にもなります。とても良い環境です」。

インタビューの場だから言うのではなく、ずっと思ってきたことなんですよ、と皆元さんは微笑みます。クリヤマの製品が特許を取得しているのも、製品の優位性を保つことはもちろん、技術を重んじていることの証でもあります。

技術研究所の頃は国内の製品開発をメインにしてきましたが、今後はクリヤマR&Dとしてクリヤマグループが欧米やASEANに展開する製品の開発に関わっていく予定です。「世界中のお客様に対して、新たな提案が出来るような役割を果たしていかなければなりません。我々は今、クリヤマグループ全体の未来を見据えた製品開発を行うことが求められてきています」。