(技術開発秘話)完成間近でも改善を止めない!世界で選ばれ続ける高性能の尿素水品質センサーが出来上がるまで

サンエー
木下靖之
入社以降、約20年間、サンエーの主力製品である尿素水品質センサーの商品開発に携わる。現在、商品開発部長。

腐食性の尿素水に耐えられるステンレスを採用

尿素水品質センサーの歴史は、2003年にまで遡ります。株式会社サンエーは世界で初めて尿素水品質センサーの開発に成功。トラックや建機、農機のディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる有害物質を除去する「尿素SCRシステム」の中にある尿素水タンク。尿素水品質センサーは、このタンクでの物質の誤注入の検出や尿素水の異常による排ガス規制の違反、製品の劣化によるシステムの故障を防止するために作られました。

「尿素水は腐食性の液体のため、その腐食に耐えられる金属として、センサーの筐体にステンレスを採用しました。これが開発の第一歩です」。そう振り返るのは、入社以来、約20年間尿素水品質センサーに携わり、現在は商品開発部長を務める木下靖之さん。

その後、センサーを軽量化するため、樹脂化が行われていきました。

走行中のトラックでも正確に計測する専用カバーの開発

品質を高めるためにサンエーが新たに取り組んだのが、専用カバーの開発。センサーは液体によって異なる熱伝導率を計測し、尿素水を識別しています。しかし測定対象は液体、しかも走行中のトラックで測定を行わなければなりません。

液体が動いていると、対流が発生し、熱伝導率を正確に測りにくいという課題がありました。そこでセンサーの周辺だけ液体の流れを抑制する専用のカバーを開発。これがサンエーの尿素水品質センサーを、世界でも随一の性能の高さへと押し上げるブレイクスルーとなりました。

「開発当初は、今とは別の方法でセンサーを作ることを考えていました。今のセンサーはハウジングと言われる樹脂の筐体に基板やセンサーを組み込んでいっているのですが、当初は基板とセンサーを樹脂で覆っていくというコンセプトで進めていたんです」と、木下さん。しかし展示会での発表も終え、信頼性や耐久性のテストを重ねていく中で、問題が見つかりました。これでは、世の中に出ていったとしても、不具合が出てしまうかもしれない。そこで樹脂の筐体に基板やセンサーを組み込む形に方向転換が行われたのです。

製品完成間近での方向転換。「試験の結果を見れば、方向転換すべきなのは明らかでした。データが語っているのだから、しょうがない。切り替えるしかありませんでした」と語る木下さん。

お客様から求められていた納期は決まっていたため、急ピッチで構造の変更や試験のやり直しを行うことに。現在は25名ほどが尿素水品質センサーの開発に携わっていますが、当時は4〜5名程度。「全員で協力会社にも頭を下げに行き、なんとか納期に間に合うよう調整して製品化に漕ぎ着けました」。

諦めそうになったことや、心が折れそうになったことはなかったのか。そう問うと木下さんは、「やり遂げなければ、という責任感のあるメンバーばかりだったので、踏ん張れたのだと思います」と一言。どんな時もデータを無視せず、品質向上を諦めず、責任感を持ってやり遂げる。このDNAがあるからこそ、世界で支持される製品が生まれたに違いありません。

「トラックを見るとセンサーを確認する癖が抜けていません」

少数精鋭のサンエーでは、1人1人が高い技術力と知識、責任感を持って仕事に取り組んでいます。木下さんのモチベーションの源とは?「製品が世の中に出た時は、やはり嬉しいです。開発当初は特定の会社の特定の車種にしか搭載されていなかったので、その車両を見つけるとセンサーが付いているのを見に行っていました。今や国内でも多くの建機や農機、トラックにセンサーが搭載されていますが、今でも停車しているトラックを見るとセンサーを確認する癖が抜けていません」と木下さんは笑顔で語ります。

尿素水品質センサーは数年ごとにモデルチェンジを行い、センサーの小型・軽量化を続けています。信頼性と精度の向上、小型・軽量化、そしてコストダウン。年々強化される排気ガス環境規制に対応する世界中の車両にセンサーを提供するため、サンエーの挑戦は続きます。